20XX年、これまで順調に拡大を続けていた人類の経済活動は、増えすぎた人口という壁に突き当たる。
行き過ぎた農業や水産資源の乱獲は多くの土地を不毛の地に変え、そこに住む人々を行く当てのない旅路へと追いやった。
人道的観点から主要な経済大国は分担して移民団を受け入れるも、その結果起きたのは混沌であった。
大量に流入した安価な労働力は自国民の職を奪い、多くの人が路頭に迷った。
職に就いてもほとんどの者は買いたたかれ、わずかな賃金で働くほかない。
さらに慢性的な食糧不足が世界規模で発生し、食料価格は高騰。
低所得者層は飢えに苦しみ、移民と国民の間には衝突が絶えなかった。
治安は急速に悪化し、暴力事件や略奪が横行。
皆が明日の生活におびえる中、一部の資産家だけは財力と権力を強め続けていた。
司法が腐敗し国は自浄作用を失い、人命の価値が著しく低下した結果、資産家の間である娯楽が流行し始める。
「人体改造」
足のつかない人間を合法的に入手し実験材料とした技術開発が進み、ついに人類はひとつの禁忌に到達する。
はじめは性奴隷に人外のパーツを装飾品代わりに取り付ける程度だった施術は、いつしか人間としての人生と引き換えに人智を超えた能力を獲得する手段として秘かに確立された。
ある者は銃弾に耐えうる頑丈な肉体を
ある者は3mの壁すら飛び越える脚力を
ある者は3Km先を見通す眼を
こうした改造人間、すなわち「怪人」たちはひそかに人間社会の暗部で活躍し、資産家の力をより強固なものにしていった。
移民団受け入れから十数年の時代を、後の人は「怪人黎明期」と呼ぶ。
この怪人黎明期も終わりに差し掛かるころ、ひとりの科学者が自身の研究施設を立ち上げる。
後に「ドクター」と呼ばれる彼は、資産家からの依頼を受けて多くの怪人を造り上げてきた闇医者で、改造手術の第一線を行く男であった。
改造を繰り返すうち、彼は自分が理想とする怪人を生み出したいと考えていた。
女性を襲うことに特化したモンスター、すなわちエロ怪人である。
彼自身の性癖も大きかったが、怪人と女性のまぐわいはショーとして人気が高く、映像も高値で売買されていたためビジネスチャンスは高いと見ていた。
彼は欲望の思い描くままに、人間をベースとした化け物を作り出す。
しかし、彼は知らなかった。
怪人を擁立するということは、闇組織同士の抗争に巻き込まれ得ることを。
そして一部の怪人が資産家たちの手を逃れ、「怪人殺し」に邁進していることを・・・。
怪人社会はすでに、次のステージへ移り始めていた。